発酵漬物

乳酸菌を利用した漬物

糠漬けの作り方

キュウリ

 キュウリの頭とおしりはアクが多く、また雑菌も多く住んでいます。水洗いしたら頭とおしりを切り落とし、板摺(いたずり)をします。板摺とは少量の塩をまな板に取りそのうえでキュウリ表面に塩がまんべんなくつくようにキュウリを転がします。少ないキュウリを処理するときは手に塩を取り、キュウリ表面に塩をなすりつけます。拝み摺りといいます。5分ほどそのままにしておくとキュウリの水分がアクを伴って表面に出てきますので、軽く水洗いして糠床に漬けます。

 キュウリは漬かりが早く、朝に漬ければ昼食時に取り出して食べることができます。塩分はたいへん少なく、塩分量を気にする人も安心して食べることができます。

 

ナス

 ナスは漬かりにくいので必ず板摺をします。板摺はキュウリより丁寧に行い、全体が柔らかくなるまで行います。色止めにミョウバンを使うときはできるだけ少なくしましょう。多いとミョウバンのえぐみがついてしまいます。

 

ダイコン、ニンジン

 ダイコン、ニンジンなどの根菜類は表皮を剥いて漬けましょう。表皮には土由来の雑菌が必ずついています。ほとんどの雑菌は糠床で死んでしまいますが、たまに糠床の在来菌より強いのがいて糠床を悪くします。

 皮を剥いたら縦に2つ割、または4つ割にして漬けます。半日から1日で漬かります。ダイコンは水分が多いので糠床が柔らかくなりやすいです。足し糠を上手に使って糠床を守りましょう。

 

糠床のお世話

1.糠床は20℃から25℃で使いましょう。

 糠床の乳酸菌と酵母は20℃~25℃の間でバランスよく活動します。20℃以下、例えば冷蔵庫内ではどちらの微生物も活動が鈍って発酵の味が出てきません。しかし、30℃などの真夏の環境では乳酸菌の活動が活発になりすぎ、漬物の酸味が強くなります。真夏はエアコンの効いた部屋などにおき、30℃以上にならないようにしましょう。

2.糠床が緩くなったら足し糠をしましょう。

 野菜を漬けていると糠床は野菜の水分を吸って軟らかくなります。水分の多い糠床では雑菌が増えて匂いや味が悪くなります。糠床の水分は60%以下が良く、手でぎゅっと絞ってわずかに水が染み出る程度です。

3.酸っぱくなりすぎた糠床は?

 水分が多くて気温が高い日が続くと乳酸菌が活発になり糠床が酸っぱくなります。キュウリをつけて緑色が抜けて黄色になるような糠床はかなり酸味が多くなっています。こんな時は糠床に入っている乳酸菌の種類が変わり、酸性環境に強くてたくさん乳酸を作る乳酸菌が主役に変わっています。

 酸っぱくなりすぎた糠床の治し方として卵の殻を入れたり、塩を足して冷蔵庫に保存するなど言われていますが、主役の乳酸菌は変わらないのでなかなか治りません。酸っぱくなりすぎた糠床はあきらめて糠床を作り直すほうが早道です。

 

糠床・糠漬けの作り方(3)


乳酸菌と酵母を利用した糠床の作り方

 新しい糠床を作る場合は、よくできた糠床を増量していくのが最も簡単です。熟成糠床に塩と水を加えた生糠を同量ぐらい加えて良く混ぜればできます。しかし、熟成糠が入手できない場合や使っている糠床が変質して直しようがない場合は培養乳酸菌と培養酵母を利用して素早く作ることができます。

材料

 生糠         1Kg

 食塩        70g

 乳酸菌培養液     100ml

 酵母培養液              100ml

 水          900ml

 

乳酸菌培養液

 漬物あるいは熟成糠床から乳酸菌を分離し、耐塩性が5%以上のものを種菌とします。乳酸菌を増やしたい場合は培地として野菜ジュース(トマトジュースなど)を用います。

酵母培養液

 熟成糠床の表面に出てくる酵母を分離して、乳酸とデンプンを資化する(食べる)酵母を選びます。アルコール酵母と違う種類になります。酵母を増やす場合は培地としてジャガイモ煮汁にぶどう糖を加えた液体培地を用います。

材料をよく混ぜて1週間おくと乳酸菌と酵母が増えて生糠臭が消えるので糠床として使います。

 

次回から具体的な野菜の漬け方を発表します。

 

 

 

糠床・糠漬けの作り方(2)

糠床の不思議

 糠床に野菜を漬けた場合、雑菌の増殖は液漬(塩漬け)の場合より高いpHで抑えられます。液漬の場合はpHが4.5以下にならないと雑菌の増殖は止まりませんが、糠床ではpH5.5以下で増殖が止まり死滅していきます。pHにしてたった1の差ですが、味覚的には大きな差があり、pH5では酸味をほとんど感じません。

 生糠を使った糠床に乳酸菌培養液を1%入れた糠床のpHと大腸菌群の推移を調べました。大腸菌群は生糠由来です。糠床の大腸菌群数は仕込み1日後に最大になりましたが、その後、減少し、糠床のpHが5.5以下になると急速に死滅して1週間後は不検出になりました。乳酸菌を入れない場合は、pH低下が遅れるので大腸菌群が死滅するまでの時間がかかりました。

 糠床の保存性の良い理由としては次のように考えられます。食塩は糠床全体に対して3.2%を入れましたが、食塩は糠床の水に溶けます。糠床の水分含量は生糠の水分と加えた水の合計になります。前回の配合例で示しますと生糠1Kg、食塩70g、加水量1.1kgですが、生糠の水分含量は10%として0.1Kg、加水量を加えて糠床の水分量は1.2Kgです。食塩は水に溶けますが、糠の固形分には溶けません。1.2Kgの水に食塩70gが溶けたとすると食塩濃度は5.8%になります。3%の食塩で漬ける液漬よりはるかに高い食塩濃度です。また、糠のたんぱく質やデンプンが分解されてアミノ酸や糖類になり、糠床の水に溶けると食塩にプラスされてその浸透圧はさらに高くなります。水分活性でいえば低くなるということです。腐敗菌や大腸菌群は0.95以上の高い水分活性でないと増殖しませんが、乳酸菌や酵母などの有用菌はこれより低い水分活性で増殖可能です。このように浸透圧と乳酸によるpH低下の相乗効果によって糠床は腐りにくくなっていると考えられます。また、脂肪の分解物には抗菌作用の高い物質があり、糠の脂肪が微生物により分解されて抗菌作用のある脂肪酸になることも考えられます。

 

糠床・糠漬けの作り方(1)

 糠漬けは日本の誇る伝統的な発酵食品で、生野菜より食物繊維やビタミンB群、乳酸菌などを含む健康に良い栄養食品です。作り方は簡単で、よくできた糠床に野菜を漬けるだけです。しかし、技術的に同じ品質の漬物を提供することが難しいのでスーパーなどで販売されず、家庭や小規模の飲食店で作る漬物です。

糠床の微生物

 糠床は乳酸菌と酵母が活発に活動し、お互いの勢力争いをしている動的な場です。温度、食塩濃度、水分、成分の変化の応じて主役になる微生物が変わります。また、新しい野菜が入るとそれについている雑菌が侵入してきます。糠床の主役は乳酸菌ですが、気温が高くなると乳酸をたくさん作る乳酸菌が強くなって糠漬けの酸味は強くなります。乳酸をたくさん作る乳酸菌は高温で元気になります。Lactobacillus plantarumは糠床で乳酸をたくさん作る乳酸菌です。酸味が強くなりすぎた糠床は半分ぐらい捨てて、低温に置いておくと治ります。乳酸を食べる酵母は低温でも元気です。酵母は糠床の準主役です。酵母がないと生糠臭が抜けませんし、糠漬け特有の香りも生まれません。糠床の酵母はパンやお酒の酵母とは異なる種類の酵母です。パン酵母を糠床に入れてもいつの間にか死んでしまいます。糠床の酵母は乳酸菌が作った乳酸を食べて増殖します。どんな酵母でも良いというわけではありません。酵母の中でもエステルをたくさん作る酵母が侵入すると大変です。糠漬けにシンナー臭がついてしまいます。Pichia anomalaという酵母が原因菌ですが、その酵母だけを死滅させることは難しいのでその糠床はあきらめて捨てるべきです。

  米糠には乳酸菌の好きな成分がたくさん入っています。アミノ酸、ビタミン類、脂肪酸など乳酸菌が必須とする成分です。エネルギー源となる主な糖質はデンプンとショ糖です。乳酸菌はデンプンを直接利用できないので野菜や酵母のデンプン分解酵素で分解されてからはじめて利用できるようになります。大根は強いデンプン分解酵素を持っています。納豆菌も強いデンプン分解酵素を持っているので少し入れると乳酸菌の増殖が活発になります。多くの乳酸菌が直接的に利用できる糖質としてショ糖が6.8%入っていますが、市販のシロタ株やラブレ菌は利用できません。糠床作りにヨーグルトを入れることは無駄です。納豆を入れるほうがはるかに良いです。

 このように品質の安定した糠漬けを作るには糠床で活動している微生物の種類や動態を考えておく必要があります。

糠床の基本

1.発酵温度    20~25℃  

 乳酸菌と酵母が活躍しやすい温度帯です。20℃以下では微生物の活動が鈍るので漬かるのが遅くなります。25℃以上では乳酸菌が強くなって酸味が多くなります。

2.糠床の水分    55~60%

 糠床をぎゅっと握って水分が少しシミ出る硬さです。生糠の水分は10%ですから生糠1Kgに水を1.1L加えるとこの範囲になります。

水分が多くなると雑菌が増え易くなりますので足し糠をして水分の調節をします。

3.糠床の塩分

 糠床の塩分は3%前後がベストです。上記の生糠1Kgに食塩70gを加えると糠床の食塩濃度は3.2%になります。キュウリなら朝に漬ければお昼に、昼に漬ければ晩に美味しく食べられます。水分が多くなって塩分が減ると雑菌が増え易くなりますので食塩入りの足し糠(1Kgの生糠に食塩70g)を使います。

 

糠床の作り方

 一番簡単で確実な方法は熟成糠を使うことです。よくできた熟成糠には適度な乳酸菌と酵母が入っています。

 熟成糠    1Kg

 生糠     1Kg

 食塩     70g

 水      1.1リットル

良く混ぜて2,3日おいてから使います。

 

 熟成糠がない場合は捨て漬をして乳酸菌と酵母を増やします。食塩と水を入れた新しい糠床に大根の皮やしっぽ、白菜の外葉など食べられない野菜くずを漬けて、翌日捨てることを繰り返します。雑菌もたくさん入りますが、そのうち乳酸菌と酵母が主要微生物になり、安定します。コツは水分過多、塩分不足にならないように足し糠を忘れないことです。生糠臭がなくなり、糠床のpHが5近くになれば出来上がりです。 

 

 

本格キムチの作り方

乳酸菌が生きている本格キムチを作ります。

材料

 白菜 1/4株    700g                       ざく切り

 大根        140g (白菜の20%)千切り 

 人参                            21g (白菜の3%) 千切り

 食塩         18g  全体の2%

 乳酸菌        10ml 

作り方

1.材料のすべてをポリ袋に入れてよく混ぜる。

2.漬物器に入れて重石をして、15℃以下で4日間発酵させる。

3.4日目には乳酸菌が増えて漬液は濁り、pHは4以下になっている。

4.薬味を作る。

 薬味の材料

 キムチ用あらびき唐辛子粉       20g

 魚醬                 30g

 擂りニンニク              5g

 砂糖                 15g

 生食用牡蠣              1個

 ニラまたはネギ            63g

5.薬味用材料をすべてボールに入れてよく混ぜる。

6.発酵下漬した野菜を漬物器から取り出し、液を切ってポリ袋に入れる。

7.薬味を加えて良く混ぜてから冷蔵庫で熟成させる。

 

 

 

 

 

シロタ株で発酵野菜ジュースを作ろう。

ヤクルトシロタ株は腸内環境を改善し、最近は毎日1,000億のシロタ株を摂取することで睡眠の質がよくなると報告されています。

ヤクルト製品を種菌として、乳アレルギー成分が非常に少なく、乳酸菌リッチな野菜ジュースを作ることができます。

 

 

材料 市販野菜ジュース(開封前常温保存できるもの;無菌とみなせます。)

種菌液 L.カゼイ シロタ株が入っているヤクルト製品(NEWヤクルト、ヤクルトファイブなど)

作り方 市販野菜ジュース100mlあたり0.5mlのヤクルトを無菌的に加えて、25℃以上で1日から3日間発酵させます。好みの酸度で冷蔵します。

 

30℃で2日間発酵させた結果を下記に示します。

種菌1mlは0.36mlの牛乳に相当します。

ニンジンジュースを発酵させるとニンジン臭が軽減します。また、炭酸ガスができます。