発酵漬物

乳酸菌を利用した漬物

糠床・糠漬けの作り方(2)

糠床の不思議

 糠床に野菜を漬けた場合、雑菌の増殖は液漬(塩漬け)の場合より高いpHで抑えられます。液漬の場合はpHが4.5以下にならないと雑菌の増殖は止まりませんが、糠床ではpH5.5以下で増殖が止まり死滅していきます。pHにしてたった1の差ですが、味覚的には大きな差があり、pH5では酸味をほとんど感じません。

 生糠を使った糠床に乳酸菌培養液を1%入れた糠床のpHと大腸菌群の推移を調べました。大腸菌群は生糠由来です。糠床の大腸菌群数は仕込み1日後に最大になりましたが、その後、減少し、糠床のpHが5.5以下になると急速に死滅して1週間後は不検出になりました。乳酸菌を入れない場合は、pH低下が遅れるので大腸菌群が死滅するまでの時間がかかりました。

 糠床の保存性の良い理由としては次のように考えられます。食塩は糠床全体に対して3.2%を入れましたが、食塩は糠床の水に溶けます。糠床の水分含量は生糠の水分と加えた水の合計になります。前回の配合例で示しますと生糠1Kg、食塩70g、加水量1.1kgですが、生糠の水分含量は10%として0.1Kg、加水量を加えて糠床の水分量は1.2Kgです。食塩は水に溶けますが、糠の固形分には溶けません。1.2Kgの水に食塩70gが溶けたとすると食塩濃度は5.8%になります。3%の食塩で漬ける液漬よりはるかに高い食塩濃度です。また、糠のたんぱく質やデンプンが分解されてアミノ酸や糖類になり、糠床の水に溶けると食塩にプラスされてその浸透圧はさらに高くなります。水分活性でいえば低くなるということです。腐敗菌や大腸菌群は0.95以上の高い水分活性でないと増殖しませんが、乳酸菌や酵母などの有用菌はこれより低い水分活性で増殖可能です。このように浸透圧と乳酸によるpH低下の相乗効果によって糠床は腐りにくくなっていると考えられます。また、脂肪の分解物には抗菌作用の高い物質があり、糠の脂肪が微生物により分解されて抗菌作用のある脂肪酸になることも考えられます。