発酵漬物

乳酸菌を利用した漬物

糠床・糠漬けの作り方(1)

 糠漬けは日本の誇る伝統的な発酵食品で、生野菜より食物繊維やビタミンB群、乳酸菌などを含む健康に良い栄養食品です。作り方は簡単で、よくできた糠床に野菜を漬けるだけです。しかし、技術的に同じ品質の漬物を提供することが難しいのでスーパーなどで販売されず、家庭や小規模の飲食店で作る漬物です。

糠床の微生物

 糠床は乳酸菌と酵母が活発に活動し、お互いの勢力争いをしている動的な場です。温度、食塩濃度、水分、成分の変化の応じて主役になる微生物が変わります。また、新しい野菜が入るとそれについている雑菌が侵入してきます。糠床の主役は乳酸菌ですが、気温が高くなると乳酸をたくさん作る乳酸菌が強くなって糠漬けの酸味は強くなります。乳酸をたくさん作る乳酸菌は高温で元気になります。Lactobacillus plantarumは糠床で乳酸をたくさん作る乳酸菌です。酸味が強くなりすぎた糠床は半分ぐらい捨てて、低温に置いておくと治ります。乳酸を食べる酵母は低温でも元気です。酵母は糠床の準主役です。酵母がないと生糠臭が抜けませんし、糠漬け特有の香りも生まれません。糠床の酵母はパンやお酒の酵母とは異なる種類の酵母です。パン酵母を糠床に入れてもいつの間にか死んでしまいます。糠床の酵母は乳酸菌が作った乳酸を食べて増殖します。どんな酵母でも良いというわけではありません。酵母の中でもエステルをたくさん作る酵母が侵入すると大変です。糠漬けにシンナー臭がついてしまいます。Pichia anomalaという酵母が原因菌ですが、その酵母だけを死滅させることは難しいのでその糠床はあきらめて捨てるべきです。

  米糠には乳酸菌の好きな成分がたくさん入っています。アミノ酸、ビタミン類、脂肪酸など乳酸菌が必須とする成分です。エネルギー源となる主な糖質はデンプンとショ糖です。乳酸菌はデンプンを直接利用できないので野菜や酵母のデンプン分解酵素で分解されてからはじめて利用できるようになります。大根は強いデンプン分解酵素を持っています。納豆菌も強いデンプン分解酵素を持っているので少し入れると乳酸菌の増殖が活発になります。多くの乳酸菌が直接的に利用できる糖質としてショ糖が6.8%入っていますが、市販のシロタ株やラブレ菌は利用できません。糠床作りにヨーグルトを入れることは無駄です。納豆を入れるほうがはるかに良いです。

 このように品質の安定した糠漬けを作るには糠床で活動している微生物の種類や動態を考えておく必要があります。

糠床の基本

1.発酵温度    20~25℃  

 乳酸菌と酵母が活躍しやすい温度帯です。20℃以下では微生物の活動が鈍るので漬かるのが遅くなります。25℃以上では乳酸菌が強くなって酸味が多くなります。

2.糠床の水分    55~60%

 糠床をぎゅっと握って水分が少しシミ出る硬さです。生糠の水分は10%ですから生糠1Kgに水を1.1L加えるとこの範囲になります。

水分が多くなると雑菌が増え易くなりますので足し糠をして水分の調節をします。

3.糠床の塩分

 糠床の塩分は3%前後がベストです。上記の生糠1Kgに食塩70gを加えると糠床の食塩濃度は3.2%になります。キュウリなら朝に漬ければお昼に、昼に漬ければ晩に美味しく食べられます。水分が多くなって塩分が減ると雑菌が増え易くなりますので食塩入りの足し糠(1Kgの生糠に食塩70g)を使います。

 

糠床の作り方

 一番簡単で確実な方法は熟成糠を使うことです。よくできた熟成糠には適度な乳酸菌と酵母が入っています。

 熟成糠    1Kg

 生糠     1Kg

 食塩     70g

 水      1.1リットル

良く混ぜて2,3日おいてから使います。

 

 熟成糠がない場合は捨て漬をして乳酸菌と酵母を増やします。食塩と水を入れた新しい糠床に大根の皮やしっぽ、白菜の外葉など食べられない野菜くずを漬けて、翌日捨てることを繰り返します。雑菌もたくさん入りますが、そのうち乳酸菌と酵母が主要微生物になり、安定します。コツは水分過多、塩分不足にならないように足し糠を忘れないことです。生糠臭がなくなり、糠床のpHが5近くになれば出来上がりです。